まちのシューレ963201012月グランドオープン)


「讃岐へようこそ、街にようこそ」。高松丸亀町商店街参番街(C街区)、小規模連鎖型再開発でできたビル正面の割れ目に設置されたエスカレータをのぼると中庭があり、ライフスタイルショップ「まちのシューレ963」があらわれる。ライフスタイル・ブランド化の旗艦店「まちのシューレ963」だ。

二階の中庭にあがると奥に「まちのシューレ963」があらわれる

般社団法人・讃岐ライフスタイル研究所が運営する。「シューレ」は「学校」。「お店に来ていただくことが、衣食住というライフスタイルの学び場となるような場所をつくっていきたい」という意味が込められている。

 命名は、奈良で「くるみの樹」を主宰する石村由起子さん。963は「くるみ」と読んでいただく。石村由起子さんは高松の出身で、「まちのシューレ963」のプロデューサをつとめた。200坪弱の広い店内は、学校に模して7つのKlasse(教室)からなる。2010年12月にグランドオープンした。

「まちのシューレ963」ができるまで

まずメインの入口を入ったところはKlasse❷「食と道具」。Klasse❶は「時を憩う café 963」だが、そこへ入るのは最後にしよう。

 Klasse❷には、讃岐を中心に四国の多彩な食品が、道具とともに一堂に会する。と言っても、道の駅のようにてんこ盛りの展示ではない。美しくレイアウトし、丁寧な説明を付してじっくり選んでいただく。あるいは、後述のキッチンスタジオのワークショップやカフェのメニューと連携して紹介し理解を深めていただく。たとえば小豆島のお醤油特集では、ヤマロク醤油「鶴醤」、正金醤油「初搾淡口『生』」、ヤマヒサ醤油「杉樽仕込 純正醤油こい口」などを□種を取り揃え、ワークショップ「シューレの島時間vol.4ー醤油ソムリエールと楽しむ本物の味」を開催、楽しみながら理解を深めてもらった。

Klasse ❷「食と道具」

この「教室」に置かれている讃岐の定番は、パリパリいりこにいりこだし、さぬきチュール「讃岐の金時にんじん」と「讃岐のかぶ」、さしすせそ純米赤酢、屋島のはちみつ ヘアリベッチ蜜(香川・井上養蜂園)、和三盆せっけん、香川県産小麦粉 さぬきの夢中力粉とホットケーキミックス、小豆島の手延べそうめん、手打ちうどん、瀬戸内の早どれのり、「かめびし屋」の三年醸造醤油を使用のパリパリ焙煎いりこ、正金醤油・八方だし、小豆島産エキストラバージンオリーブオイル、香川産ノンワックスレモンのレモン生しぼり果汁とレモン塩、オリーブの塩漬け、まるごとはるみマーマレード、豊島レモンマーマレード、しょうゆ豆、ショウガ糖に筒入りおいり、ピーチャン豆、醤油そして地酒。週末には、香川県産の無農薬・無化学肥料でつくられた、安心・安全でおいしい色とりどりの野菜が並ぶ。どうです、よだれが出てきませんか?

Klasse ❷「食と道具」の食材たち

讃岐以外の四国からは、野菜炒めにまぜるだけと温野菜にまぜるだけ(徳島・柚冬庵)、神山すだちサイダー(徳島県神山)、国産小麦と高知県の野菜を使ったやさしいおやつ、愛媛のげんこつ飴、みとよ竹の子、海藻ふりかけとむろっとのコンフィ(高知県室戸)、オリーブ花酵母仕込み「花醤」、木頭ゆずの手作り柚子みそとマーマレード(徳島)。

 この店が道の駅と異なるもうひとつのポイントは、地域外からも、よいもの、欲しいもの、モデルになるものを厳選して受け入れ販売していることである。全国から、フラクタスのバレンタイン限定のグラノーラ(東京・千駄ヶ谷)、TE HANDELの紅茶(スエーデン)、People Treeのフェアトレードチョコレート、禾nogiの甘酒パウンドケーキとクッキーの詰合せ、「よしだむら」のおみぎりみそ(唐辛子、山椒、柚子、生姜、島根県雲南市吉田町)nest coffee カフェオレベース(鹿児島)。料理研究家・辰巳芳子さん主宰の茂仁香の一連の食材:辰巳式かつおだし・黒潮の力、脂肪分ゼロ、塩分ゼロ、添加物ゼロの丸どりだし、ジャムなどなどが揃う。

 次の教室は「生活道具」。台所道具、うつわ、保存容器、かご、タオル・ふきん・エプロン、お風呂、洗面。ここも、よいモノ、欲しいモノを地域・国籍を問わず厳選して集める方針である。だから、料理研究家・有元葉子さんと燕の技術が生み出したステンレスのプレートとざるが置いてある。

Klasse ❸「生活雑貨」

2012年11月の瀬戸内生活工芸祭(2年ごとの開催)では、五人の作家が飯碗、汁椀、皿、コップ、盆を手分けして器を制作。ひとつの膳を作り、女木島で育まれた食材でつくった料理を提供するというイベントが行われたが、彼らの作品はシューレの定番である。五人とは、今一番人気の赤木明登(黒漆汁椀)、安藤雅信(切込高坏皿)、内田鋼一(白磁飯碗)、辻和美(普通のコップ)、三谷龍二(木地盆)である。

 しかしもちろん地元の職人やクラフトマンとの協力がシューレのもっとも大切な仕事だ。今のところ、讃岐漆芸の作り手の力を結集したこども うるし うつわ (拭漆セット)、香川在住の吹きガラス作家・蠣崎 允(カキザキマコト)さんのつくったシューレオリジナルグラスが定番商品だ。タオル・ふきんがお隣愛媛の今治の特産であることはご存じの通り。そこの選りすぐりのタオルとふきんを用意している。エプロンはシューレのスタッフが着用しているとても使いよいギャルソンエプロンを、Tシャツは身体の自由な動きを妨げない、立体裁断で脇に縫い目がない、丸胴仕上げの国産Tシャツをお勧めしている。香川そして四国には多くのクラフトマンがアトリエを構えている。地場産業も盛んだ。これからもこのようなオリジナル商品を開発していく。

 この教室には、ファッションも用意している。evam eva、大橋歩さんのa.(エードット)、伊藤まさこさんの&、□■の靴、などが主なブランドだ。ギャラリーで行われる毎年春夏の発表会には、デザイナーも駆け付ける。

 そして店内一番奥が「ギャラリー」である。大小ふたつの「ギャラリー」があり、期間を限定して、特定の作家、ブランド、テーマで作品等の展示を行う。もちろん、美術館ではないから、販売あるいは受注を行う。たとえば昨年(2013)来行われた展示会次ページに見開きでを掲げよう。これを見ると高松に住みたくなること請け合いである。

 展示会の合間には、毎月いろいろなテーマで茶会が開催されている。そこで活躍するのは、椅子式の茶のしつらえ、桜製作所の茶机「天遊卓(てんゆうじょく)」だ。

Klasse ❹❺「ギャラリーSchule」

楽しいのはギャラリーだけではない。まだまだ続く。ギャラリーのまえで右折すると、次の教室のテーマは「手の仕事/民芸」。高松は、県立の工芸高等学校がある工芸のまちである。伝統工芸では讃岐漆器の産地として知られ、同校の卒業生が活躍している。ジョージ・ナカシマの家具製作で知られる桜製作所を創業した永見真一さんも同校の卒業生。庵治石の産地で知られる市内庵治町にはイサムノグチ、流政行がアトリエを構えた。丹下健三の高松県庁舎が今ではすっかり修理されて大切に保存されているが、桜製作所のジョージ・ナカシマ記念館を訪れた人は、そこに遺された落書きに、高松がまさしくモダンデザインのメッカであったことを思い知る。定着し始めた瀬戸内芸術祭の背景のひとつである。さて、シューレもその一角を担うべく、このコーナーでは道具や家具を紹介している。家具やイサムノグチの照明も扱っているが、ヒットは、「香川で唯一の菓子木型の伝統工芸士 市原吉博さんの木型をと和三盆をセットにした干菓子製作キット」と「讃岐かがり手まり」。

Klasse ❻「手の仕事/民芸」

「手の仕事/民芸」からUターンすると、床を一段と高くしたキッチンスタジオがある。月に1~2回のワークショップが開催される。表は昨年のラインナップである。いくつかはギャラリーと連動した催しになっていることはすでに見た通り。

Klasse ❼「鳥と植物」

そして一周して最後はカフェ963。オリーブや葡萄の生い茂る中庭のテラスと一体の快適な空間。人気は月2回の ペースで変わるランチ。食材、食器、メニューを店内の商品やイベントと常に連携している点が重要である。その意味では家具も展示品。カフェ店内の家具は、香川在住の家具職人・松村亮平さん、テラスの家具は鉄工作家・槙塚登さんが手がけたものだ。テラスでは、月一回「シューレの庭マルシェ」が開催される。季節ごとの芽吹きや新緑に囲まれて、香川のものを中心に、安全でおいしい野菜や果物、パンやおやつが集まる。2階の奥という一般的には不利な立地に、中庭とともに独自のワールドをつくりだすことに成功した。

Klasse ❶「時を憩う café 963」
実現した二階の中庭
■参考文献・資料

*NHK地域づくりアーカイブス

http://www.nhk.or.jp/chiiki/movie/?das_id=D0015010060_00000

*Lifestyle Shop in Japan(紹介冊子)→アーカイブス