クリエイティブタウン
□ これまでの延長線上で、復興の方法、地方の再生を発想しても、うまくはいかない
□ 戦後の都市化が被害をおおきくした。市街地の上手な縮退(スマート・シュリンク)は、全国の課題
□ 風土に育まれた地域固有のライフスタイルこそ活かすべき資源
□ 地域の中心都市のまちなかをクリエイティブタウンとして再生、「ライフスタイルのブランド化」を牽引
□ 適切なマネジメントが不可欠。マネジメントの主体はまちづくり会社
□ クリエイティブ・タウンモデルは、中心都市のまちなかがひとり勝ちするモデルではない。田園都市の再構築へ
□ 東日本大震災からの復興の歩みは遅い
たとえば被災都市としては仙台に次ぐ第2の規模の石巻市の場合。石巻では、全住家数の約76.7%の5万8867棟が被災し、うち約35%の1万9974棟が全壊するという被害を被った。
震災後5年半経った2016年秋、郊外の蛇田地区では土地区画整理が終わり、住宅の建設が進んでいる。まちなかでも復興住宅ができ、いくつかの再開発が完成し、商店街ではまばらに新しい店が始まり、徐々に明るさを取り戻しつつある。しかし全体としては空店のままである。仮設店舗から本設店鋪への動きは鈍い。同様に、応急仮設住宅は、プレハブ住宅が7153戸建設されたが、5年半を経過した現在でも、2939戸、6234人が入居中である。およそ5000戸あったみなし仮設(民間賃貸住宅)には、1724戸、4120人が入居中である。
□ これまでの延長線上で、復興の方法、地方の再生を発想しても、うまくはいかない
被災地域は被災前から、全国の地方と同様、経済の停滞、雇用の減少、地域社会の結束力の低下、地域文化の衰弱など、多くの問題を抱えていた。そのことを横に置き、これまでの延長線上で、復興の方法、地方の再生を発想しても、うまくはいかない。
これまでの地域振興や再生のシナリオは、「外発的発展」の発想で、外部でのお手本をもって発展の道筋を決め、方向を定めていく方法であった。しかし、外の価値観に依存することで、内発的・自律的に生きつづける生命力を衰弱させた。
人口減少社会においては、地域の資源や個性・特性を最大限に活かし、創意工夫のもと、地域の総力を結集し、自律的・持続可能なまちづくりの仕組みを再構築することが重要である。
□ 戦後の都市化が被害をおおきくした。市街地の上手な縮退(スマート・シュリンク)は、全国の課題
人口減少時代のもうひとつの課題は市街地の縮退である。この問題も被災を通して露わになった。図は石巻の被災の様子である。ピンクで塗ったところが人口集中地区(DID)、水色で塗ったところが浸水した地区。下は大正はじめの地図で、当時からの中心市街地は、戦後に拡大した地域に比べ被害は小さい。上は、現在の地図で、市街地が大幅に拡大した様子が見てとれる。町並みが一掃されるような被害を受けたのは,戦後に拡大された市街地である.ほとんどが、標高が低く、水田や河川敷を埋立て、造成して創られた土地だ。造成後も、低密度・低未利用の状態が続いていた土地が少なくないことも読み取れる。
人口の減少が既に始まり、石巻では10年後には1930年代と同じになると予測されている。そのころ、石巻の市街地に郊外はなかった。このまま中心市街地を失ってよいのか、このまま郊外への拡大をつづけてよいのか、答えはあきらかだろう。たまたま石巻では震災が時間を一瞬に縮めて問題をあぶり出したが、市街地をいかに上手に縮退するか(スマート・シュリンク)は、全国の課題である。
□ 産業都市モデルからの転換
市街地の拡大は、「外発的発展」の発想にもとづく従来の地域振興や再生のシナリオの中で進んだ。従来の地域開発は産業都市モデルと呼ばれる。その代表が1962年の新産業都市建設促進法。石巻も、全国で指定された15地域のひとつ仙台湾地域の一翼を担い、この制度のもとで、港湾が整備され工場が誘致された(1967)。あたらいい漁港、市場、水産加工団地の整備も同じ時期である。このころは中心商店街の絶頂期であるが、同時に郊外への拡大も始まった。郊外化は二次にわたり、1998年、三陸自動車道の石巻河南インターチェンジができると、その周辺に続々と大型店が集中、2005年にはイオン石巻東ショッピングセンターがオープン。これが石巻中心市街地へのとどめとなった。駅前、さくらの百貨店(現石巻市役所)の閉店はその象徴である。
以上のプロセスは、産業都市モデルの展開とぴったり一致する。地域の経済にとって大規模な工場は重要だが、経済構造の変化の中で、そこにすべてを依存することはもう期待できない。産業都市モデルからの転換は不可避であり、その先に構想されるのがクリエティブタウン・モデルである。
□ 風土に育まれた地域固有のライフスタイルこそ活かすべき資源
欧米は、そのライフスタイル(生活文化)を産業としてきた。服飾、生活雑貨、食べものなど生活文化全般にわたり、オリジナリティのあるデザインを、オリジナルな素材と技術(職人術)でつくりだし、世界の人びとを魅了し、富を生みだしてきた。日本では、それら産業がどんどん縮小しているが、日本のデザイン、素材と技術(職人技術)が、欧米に比較して遜色あるわけではない。それら日本の地域に根付くライフスタイルを再興し、産業化する仕組みをつくることが内発的発展に不可欠である。
「クールジャパン」が展開されている。地域のライフスタイルを、従来のステレオタイプ化された日本像を超える日本のライフスタイルとして、デファクト・スタンダード化した「西洋のライフスタイル」のオルタナティブとして世界に訴求する。美しい日本と地域ごとに豊かに展開する「地域のライフスタイル」の維持・発展こそが「クールジャパン」にほかならない。
□ 町の中心に賑わいがもどることが復興の近道
地域のライフスタイルを洗練・発展させ、花開かせるのは、その地域の中心にある都市である。各地域に固有の町並みと文化を育み、内外の多くの人びとを惹きつけ、富を生み出して来た(祭りはその象徴的存在である)。町がにぎわうことと地域の経済が潤うことは表裏であった。市民が誇りに思い、集まることのできる中心は、自治を育み支える不可欠な社会資本であった。その構造が、市街地の郊外への拡大で崩れかけている。「ライフスタイルのブランド化」を実現するためには、この構造を再構築する必要がある。まちなかを拠点に「ライフスタイルのランド化」を成長産業に育て上げ、地域に富が蓄積する構造をつくりあげることが基本戦略となる。
□ 地域の中心都市のまちなかをクリエイティブタウンとして再生、「ライフスタイルのブランド化」を牽引
傷んだまちなかを「クリエイティブタウン」として再生する。「クリエイティブタウン」とは、地域の中心都市のまちなかを再生してつくる、地域独自のライフスタイルを支え・育み・強め・発信し、地域の経済社会を牽引する拠点である。地方の再生、そして復興には、従来の発想とは異なる地域の課題を解決する新しい枠組が不可欠であるが、「まちなか再生」と「ライフスタイルのブランド化」の組み合わせを切り札とする。すなわち、①まちなかをデザインコードに従って連鎖的に開発し(あるいは保全し)、美しく快適な町並みを回復[まちなか再生]、②地域に必要な市民サービスを充実するとともに、その地域固有のライフスタイルに関連した産業を興し[ライフスタイルのブランド化]、地域全体の風土に根ざした内発的産業の発展を牽引する機関車としていく
□ 小規模プロジェクトの集積で魅力をつくる
「まちなか」の規模は、数ヘクタールからせいぜい数十ヘクタールまで。規模が大きく、政策効果がうすくなりがちな、中心市街地活性化法の「中心市街地」とは一線を画す。その「まちなか」に、地権者の合意が形成されやすい単位で、小規模のプロジェクトを集中的・連鎖的に実施、集積によって魅力をつくっていく。集積することで相乗的に効果を高め、成功するビジネスモデルが構築できる
︎地方都市の中心市街地では、ポテンシャル低下に伴い、開発原価とマーケットバリューの逆転現象が起きている。上記の集中的な開発及び資金投下でエリアとしての競争力を復活、スタート時には公的支援が不可欠としても、その後は民間投資の循環が回復するようにする
□ 適切なマネジメントが不可欠。マネジメントの主体はまちづくり会社
以上のプロセスが的確かつ順調に進むためには、適切なマネジメントが不可欠である。たとえば、次ようなマネジメントが必要になる:
- 美しく快適な町並みが再生するために、デザインコードが必要。デザインコードを運用する組織が必要
- 歴史的建物を保存・活用したり、共同で建物を建てる場合、権利の調整や資金調達が必要
- 土地や建物が、まちづくりにふさわしい内容で使われるよう、土地の所有と利用の分離が必要、さらに適切な利用を実現するマネジメントが必要
- ライフスタイルのブランド化がすすむために、かつての大店にならったプロデュースのシステムが必要
︎このようなマネジメントは、そのコミュニティが取り組む以外に担い手はいない。商店街組合など既成の組織に加えて、実行力を備えたまちづくり会社が不可欠である。
□ 3ポイントアプローチ
実現のために必要なポイントは「デザイン」「スキーム」「ビジネス」の3点に整理される。これを3ポイントアプローチという
□ クリエイティブ・タウンモデルは、中心都市のまちなかがひとり勝ちするモデルではない。田園都市の再構築へ
人口減少がはじまり、市街地のコンパクト化や縮退(シュリンク)が不可避となった。それを地域での一極集中で解決するのではなく、この状況を奇貨として美しい田園や町並みとそこで営まれる豊かな生活を回復し、都市と農村が相互に助け合う田園都市を再構築するためのモデルである。賢いシュリンク(スマートシュリンク)を実行するためのモデルである。
だからこそ、都市は、外部の製品を農村へ供給するだけでなく、地域を外部へ売り込む拠点とならなければならない。ITC も駆使しつつ、二次的、三次的な中心や基礎集落とネットワークを組織化し、相補的・相乗的に持続可能なまちづくりを実現していく。ここで、クリエイティブ・タウンは、地域へのポータル(入口)としての役割を果たしていく。