高松丸亀町A街区とガラスドーム(2007年)
高松丸亀町商店街再開発の第一弾となるA街区の建物が2006年12月に竣工。翌年5月には、もと札の辻につくられた広場にガラスドームが完成。城下町時代の町の核・札の辻が、文字とおり現代の町の核として蘇り、まちなか再生の象徴となった。
*以下、文中の[# ]は、高松デザインコードの関連パタンを示します。高松デザインコードは本ホームページのアーカイブスにあります。
■共同建て替えで快適な公共空間を生み出した
A街区は、全長470m、A〜Gの7街区からなる商店街の一番北で、高松中心市街地のヘソである片原町・兵庫町との交差点(かつての札の辻)に面し、その北には三越百貨店がある。2006年5月、札の辻に作られた広場にかかるガラスドームが完成してA街区のグランドオープンとなった。この再開発計画についての最初のレポートは1991年7月、そこで描かれた基本方針が16年の歳月を経て実現した。
ドームは、直径25m、高さが32.18m。下の円形広場には、高松出身でニューヨークのソーホーにアトリエを構える画家川島猛氏描く抽象画の不思議な模様が、ガラス越しに注ぐ光の中でキラキラと踊る。設計を担当した坂倉建築研究所大阪支社からは、平らなガラス屋根にする提案もあったが、ドームにこだわった。空間の一体感を生み出すには、同心円状に中心部が高くなるドームでなければならない。素材も鉄とガラスにこだわった。検討の過程では、コスト、荷重、アーケード規制など複雑な要因がからまり、ポリカーボネートやアルミニウムへの変更が幾度となく俎上にのぼった。構造は、ハヤリのトラスではなく、水平・垂直の材で組み立てることを押し通した。床面について「広場は中高」という原則を貫いた[#20. 結節点のドーム]。
完成以来、高松市中心市街地でもっともホットなイベント空間となった。週末のイベント会場として申し込みは引きも切らず、選挙のたびに党首が第一声をあげる場所となった。城下町時代の町の核・札の辻が、それが文字とおり現代の町の核として蘇った。
ドームはA街区の43人の地権者が共同建て替えすることで生み出された広場の上に載っている。A街区の再開発事業では、土地所有は建て替え前も後も変わらない。つまり、ドームの一部は私有地の上に建っている。通りも1.5m私有地に食い込んでいる(本来幅8mだった道路を壁面後退し11mにしている)。そのほかにも、あちこちに居場所が作られており、39名の地権者たちは地割り線を、定期借地権を設定することでいったん帳消しにし、その上に美しい町並みと豊かな公共空間を生み出すよう建物を配置したのである。その建物を所有し運営するのは、地権者たちが設立したまちづくり会社で、上が建物の地権者も、上が広場や通りの地権者も、同じように地代を受け取る。地権者たちは土地を共同利用することで望ましいデザインを実現し、土地の価値を高めることに成功したのである。
■すべての基本は「メインストリートをプロムナードに」
すべての基本は、メインストリートを市民が集い・憩う場として回復することである[#1. 高松のメインストリート・丸亀町]。そのためにもっとも重要なことは、この再開発が、道を挟んで東西ふたつの棟から構成されていることである。逆に言えば、2つの棟で道を囲み、メインストリートの空間をつくりだしている。あたりまえのように思われるかもしれないが、再開発の商業施設では一般的ではない。ひとつのブロックを使ってデパートのような建物を建てるのが普通だ。そして建物内に縦導線としてアトリウムを設け、その周囲に水平の動線を配置して上層階へ人を導くのが常套手段である。
しかし、丸亀町再開発では、メインストリートにアクティビティが集まり、人々が快適に過ごすことができる場所となるよう、あらゆる手だてをつくしている[#9. 賑わいが集まる街路]。
通りを囲む低層部は、3階建ての商業床で、道幅を8mから11mへ少し広げ、道幅と建物の高さの比を、伝統的な都市にならって1:1.5に設定する[#8. 道幅と建物の高さ(D/H)]。
ファサードを、基部、ボディ、頂部の三層構成になるようしっかりとつくり、街路空間を取り囲み、図としての外部空間をつくりだすことを大原則とする[#19. 連続する正面]。1階の店舗については、ドーム広場のまわりにはアーケードを設けるが、それ以外では店内が街路の延長になるように店舗を通りに直面させ、街路と店舗の関係が切れないように配慮する[#24. 通りに開く店舗]。ビルの中に縦動線のためのアトリウムを設けるのではなく、通りそのものをアトリウムと考えるのである。住宅となる上層階については、道路中心線から10mセットバックし、D/H=1/1となるよう高さを定める。街路から上層階の住宅が気になることはほとんどない。4階はコミュニティ関連施設を原則とするが[#5. 店舗・コミュニティ・住宅の 三層構成]、その前面に広がる3階屋上のテラスは、とても気持ちのよいガーデンとなる[#16. 屋上庭園]。
人々が集まるドームと丸亀町の通り沿いの2〜3階に回廊を巡らせる[#22. 空中歩廊:町の縁側]。建物と街路との間に豊かな中間領域が生まれるよう、あらゆる機会を捉える。回廊は三層のブリッジを介して街路を挟むふたつの棟にまたがる。回廊の柱間に、ベイウインドウのような籠とともに設けたアルコーブや[#25. アルコーブ]、広めの回廊に置かれた椅子とテーブルは、人々の格好の休憩所となるとともに、通りの人と上層階の人がお互いに存在を感じあう窓となる[#23. 通りと会話する窓]。アルコーブは、ヨーロッパの町並みの出窓やバルコニーのように、通りに張り出すことができる仕掛けになっているのだ。
デザインだけでなく、スキームもこの原則に従っている。この再開発事業では、街路を挟んだ東西の街区を一体にして権利変換を行っているのだ。保留床と住宅の7割は西棟に配置されているが、収益の配当(=地代)は東西両ブロックの地権者に平等に配分されている。上の説明を読んできた人はあたりまえに聞こえるかもしれないが、離れたふたつの敷地を一体に扱うのは業界のやり方としては異例である。
■隔地駐車場
このプロジェクトでは、駐車場問題の解決もユニークである。必要な駐車場を少し離れた三越の平面駐車場を立体化することで用意した。機械式立体駐車場2基を敷地内に設ける案もあったが、三越との協議の結果、三越の平面駐車場を借地し立体化することで、より使いやすく収容台数の多い施設(自走式207台)を、中心市街地(歩行者に開放されたスーパーブロックとなる)を取り巻く幹線道路沿いに設置することとした。再開発の施行区域外の共用施設と位置づけ、再開発事業の枠組みの中でA街区再開発組合が事業主体となって建設する。この駐車場を実現するためにも建築規制との調整が必要であったが、2002年10月に指定を受けた都市再生事業緊急整備地域を拡大し(2003年7月)、A街区と共に特別地区の指定を受けることで実現した。なお、駐車場は、丸亀町商店街が郊外と対抗するための必須アイテム。すでに4箇所の「町営駐車場」を設け(合計769台)、毎年およそ5000万円程度の利益をあげていた。再開発実現の重要な資金源ともなった。使い良い駐車場の整備は、商店街の得意科目としてきたことであり、この再開発でもいわば沽券に関わる課題であった。
■街づくり会社
建物を所有し、運営にあたっているのはまちづくり会社である。1990年に描いたプランとおりだが、現実に対応させるため、いくつかの調整・変更が行われた。まちづくり会社は、商店街全体のマネジメントを行う会社と、街区ごとに床を買い取り運営する会社の二層になった。前者は第三セクター「高松丸亀町街づくり会社」で、TMOと共同で事業を行う特定会社として1999年1月に発足していた。当初はこの会社に地権者が出資し、同社が商業床の買い取りと運営を行うことを想定していたが、別の街区でも事業が進展していくことを考え、地権者(出店者)が事業主体としての認識や責任を維持するため、またリスクを分散するため、街区単位で事業収支が明確になる小さい単位を基本にするのがよいと考えるに至った。地権者ではなく、出店者が設立した共同出資会社となったのは、この段階では地権者会社の場合は、高度化融資に第三セクター要件があったからである。
実際のマネジメントは従来の計画通り高松丸亀町街づくり会社が専門家であるタウン・マネージャと職員を雇用してあたる。地権者の出資する会社がマネジメントにあたるという当初の趣旨と少しずれるが、共同出資会社は高松丸亀町街づくり会社に出資し、同社への発言権を確保する。この共同出資会社は、高松丸亀町壱番街株式会社としてまず出店する地権者たちにより2003年3月に設立された。
このような体制の確立は、地権者が事業に一定のリスクと責任を負うことの明確化と表裏一体である。すなわち、地権者は上記会社の株主になるだけでなく、従前建物の補償費を権利床の形で事業に還元させ、地代は町づくり会社の業績に応じて変動する契約とする。これは土地信託の配当に限りなく近似した契約で、信託制度活用の研究がいかされている。これを別の言い方で言うと、地権者は当事業に土地を投資し、地代という形で配当を得るということである。
■資金調達
最終的な資金構成は図のようになった。
総事業費約65.8億円のうち42%が市街地再開発事業に関連する補助金である。通常の再開発で公的補助金が3割前後とされるのに対し高率に見えるのは、転出者が少なく土地費が少なくてすんでいるからである。
それでも大きな企業は転出を希望する場合があり、個別地権者も負債を抱えている場合には転出を余儀なくされる。この転出分をひきうける新たな地権者が登場すれば、コストの顕在化を避けることができる。A 街区市街地再開発事業では、地価に対し6%程度の地代が期待できることから、不動産を証券化・小口化することとし、いわゆる YK-TK スキームを組み、 SPC へ資金を集めることとした。
SPC の名称は「高松丸亀町コミュニティ投資有限会社」。ここへ中間法人からの出資、投資家からの匿名組合出資、銀行からのノンリコースローンを受け資金をつくる。具体的には、中間法人は、第三セクターである高松丸亀町まちづくり株式会社が出資した有限責任中間法人、匿名組合出資は、都市再生ファンド投資法人(優先)と高松丸亀町まちづくり株式会社(劣後)、ノンリコースローンは第二地銀の香川銀行が分担した。都市再生ファンドの出資は、都市再生特別措置法第29条の民間都市機構の業務の特例に基づく、民間都市再生事業の認定に基づいてなされる事業支援。この措置が、このスキームが成立する鍵となったことは言うまでもない。
保留床のうち、住宅は分譲し(実際には特定業務代行者が買い取り分譲)、店舗はA街区共同出資会社へ売却する。共同出資会社の保留床取得費約18.6億円余のうち28.3%が中心市街活性化に関連して設けられたリノベーション補助金である。また約半分が低利の高度化資金である。
商業床を取得したA街区共同出資会社は、店舗を運営し(実際の業務は丸亀町街づくり会社へ委託)、地権者へ地代・家賃を支払う。①保留床価格が安く、テナントの進出が容易である、②借入金額が少なく、そのかなりの割合を低利の高度化資金が占める、③立地上から有力テナントの出店意向が強い、などから、資産価値に対し6%の配当が維持されている。
***
高松中心市街地のヘソであり、三越がすぐそばにあるこの地区では「ハイクラスブランドを集積した大人のファッションとカルチャー」が商業コンセプトで、主にブランドショップが集められた。オープン後1年間で売り上げ35億円を達成した(再開発前は10億円)。この間、高松商圏では、人口あたり大規模小売店鋪売り場面積全国一位という状態の上に、新たに総計20万平米の大型店が相次いでオープンした。イオン高松ショッピングセンター(2007年4月、6.1万平米(店舗面積))、イオン綾川ショッピングセンター(2008年7月、7.7万平米)、ゆめタウン丸亀(2008年12月、2.4万平米)などである。このような状況の中で健闘と言えるだろう。もちろん、想定した事業計画は達成されているので、地権者への配当(地代)は予定通り行われている。経済低迷で懸念された2008年歳末の売り上げもほぼ昨年並みである。この事業によってもたらされる税収は、年間3.9億円と想定される(固定資産税・法人税・所得税・消費税の合計)。再開発前は年間1.1億円と試算されるので、税収増は年間2.8億円。投下された補助金に対する利回りは6%と計算される。中心市街地再生の意義は経済にとどまらないが、TIF(Tax Incremental Funds:都市開発後の収益や税収を担保に、その一部を返済にあて融資や債権を受ける仕組み)の観点から言っても本事業の意義は明らかである。
■施設概要
■データ
件名 | (仮称)高松丸亀町商店街A街区市街地再開発ビル | 隔地駐車場 | ||
所在地 | 高松市丸亀町及び片原町内 | 高松市内町2-1/2-3 | ||
建物の用途 | 店舗、コミュニティ施設、共同住宅、駐輪場 | 駐車場、店舗 | ||
構造 | SRC造、RC造、S造、地下1階、地上10階 | SRC造、RC造、S造、地下1階、地上8階 | 地上6階 | |
高さ | 西棟:36.49m | 東棟:30.74m | 24.06m | |
施工区域面積 | 4,366㎡ | |||
敷地面積 | 1,623.31㎡ | 1,542.93㎡ | 3,166.24㎡ | 1,725.77㎡ |
建築面積 | 1,398.91㎡ | 1,362.70㎡ | 2,761.61㎡ | 1,397.71㎡ |
建蔽率 | 86.18% | 88.32% | 87.20% | 80.99% |
延べ床面積 | 10,134.36㎡ | 6,441.20㎡ | 16,575.56㎡ | |
容積対象面積 | 9,020.65㎡ | 6104.13㎡ | 15,124.78㎡ | 7,461.46㎡ |
容積率 | 555.69% | 395.62% | 477.69% | 432.36% |
用途別床面積
店舗 コミュニティ 共同住宅 付属駐輪場 その他 |
5,107.42㎡ 0㎡ 4,078.06㎡ 362.98㎡ 555.90㎡ |
3,931.13㎡ 1,325.22㎡ 910.03㎡ 178.48㎡ 96.34㎡ |
9,038.55㎡ 1,325.22㎡ 4,988.09㎡ 541.46㎡ 682.24㎡ |
|
接道 | 中央:市道丸亀町栗林線(8m)、北側:市道片原町沖松島線(11m)、南側:市道百間町通り(8m) | |||
戸数等 | 住宅47戸 | |||
駐車場 | ||||
駐輪場 | 機械式432台 |
■都市計画
(仮称)高松丸亀町商店街A街区市街地再開発ビル | 隔地駐車場 | |
地域地区 | 商業地域、防火地域、駐車場整備地区、都市再生特別地区(丸亀町商店街A街区地区) | 商業地域、準防火地域、駐車場整備地区、都市再生特別地区(内町地区) |
指定建蔽率 | 70% | |
指定容積率 | 500% | |
都市再生特別地区
容積率の最高限度: 容積率の最低限度: 建蔽率の最高限度※1: 建築面積の最低限度: 高さの最高限度※2:
壁面の位置の制限※4: |
550% 200% 70% 200㎡ 高層部:36.5m 低層部※3:16.5m 高層部:1.0m〜1.5m 低層部:道路中心線から10m |
550% 200% 80% 200㎡ 高層部:36.5m
1.0m〜5.0m |
※1 建築基準法第53条第3項第2号に該当する建築物(角地)にあってはA街区は8/10、内町街区は9/10、同条第5項第1号に該当する建築物(防火地域内耐火建築物)にあってはA 街区は9/10 とする
※2 高さの算定は建築基準法施行令第 2 条第 1 項第 6 号に準ずる。
※3 低層部は,道路中心線から10mの区域とする
※4 アーケード、渡り廊下は除く
■経過
詳細な経過は下記をご覧ください:
ブス 3:ドキュメント:A街区再開発の16年
市街地再開発事業 | 都市再生特別措置法、都市再生特区、民間都市再生事業 | 施設集約化事業 | 戦略的中心市街地中小商業等活性化支援事業 | ||
1994 | H.6 | 再開発準備組合設立(1) | |||
2001 | H.13 | 都市計画決定(3) | |||
2002 | H.14 | 事業計画認可(10) | 都市再生緊急整備地域指定(10) | 中小企業総合事業団事前相談(12) | |
2003 | H.15 | 特定業務代行者決定(11) | 都市再生緊急整備地域一部拡大(7) | 中小企業総合事業団事前指導(3)
中小企業総合事業団事前指導(6) 中小企業総合事業団事前診断(10) |
|
2004 | H.16 | 権利変換計画認可(10) | 都市再生特区の都市計画提案(1)
都市再生特区の都市計画決定(4) |
高松丸亀町壱番街株式会社(3) | |
2005 | H.17 | 施設建物工事着工(3) | 民間都市再生事業計画認定申請(10) | ||
2006 | H.18 | 民間都市再生事業大臣認定(1) | 中小企業総合事業団事後指導(10)
保留床取得(11) 高度化資金融資実行(11) |
平成18年戦略補助金一次募集応募(2)
平成18年戦略補助金二次募集応募(9) 高松丸亀町壱番街駐車場オープン(11) 高松丸亀町壱番街オープン(12) |
|
2007 | H.19 | 施設建物工事完了公告(1) | 高松丸亀町商店街アートプロジェクト(3)
アーケード・ドーム完成(3) |
■参考文献・資料
*高松丸亀町商店街:http://www.kame3.jp/redevelopment/
*anki(あんき)http://www.kame3.jp/redevelopment/freepaper.html
高松丸亀町商店街振興組合・anki編集委員会:高松丸亀町商店街で再開発の節目に発行されるタウン誌。下記に紹介があります:
https://www.machigenki.go.jp/144/k-1144
*福川裕一/西郷真理子(2005)「徹底研究=高松丸亀町再開発:土地・主体・デザイン」『中心市街参考文献 1地活性化とまちづくり会社』(日本建築学会編・まちづくり教科書第9巻,丸善,2005. 9. 25
*西郷真理子(2005)「A街区再開発事業の特徴と意味」『季刊まちづくり』13(0701)、2006. 12
*福川裕一(2005)「丸亀町がめざす空間とデザイン」『季刊まちづくり』13(0701)、2006. 12
*野口秀行(2005)「地域内資金循環の仕組み」『季刊まちづくり』13(0701)、2006. 12
*福川裕一(2008)+まちづくりカンパニー・シープネットワークほか「クリスタルドーム&壱番街:高松丸亀町商店街A街区第一種市街地再開発事業」、[論文]「至るところで公私を繋ぐ「共」の空間」『新建築』83-1,2008. 1
*福川裕一(2011)「高松市丸亀町商店街と都市再生特別措置法」『地域開発』vol. 562、2011. 7